第74章 惑乱
「でも、それはあくまで"起こった出来事"を調べて貰ったというだけ。その時誰がどう考えて行動したかなんていう事は、私には分からないわ」
それは、そうだろう。
でも……
「オレに、オレに全部教えてもらえませんか。
オレ、みわの全部が知りたいです。
みわを、受け止めたいん……です」
この胸のモヤモヤを取っ払いたくて、お祖母さんにそう頼んだのだが、お祖母さんは、迷う事なく首を横に振った。
みわの失われた過去に関しては、みわ自身の記憶が戻って、その時に質問された場合のみ、答えると決めているとのこと。
オレに、重荷を全部背負わせる訳にはいかないということ。
オレはそれでも構わないと言ったが、お祖母さんが首をタテに振ることはなかった。
「じゃあ……今回の事ならいいんスよね。
みわ……なんつーか……こんな事言うの、アレなんスけど……」
みわは、オレが初めてじゃなかったとショックを受けていたが、オレはみわを初めて抱いた時のこと、今でもハッキリと覚えている。
痛みに顔を歪め、掠れた声でオレを健気に受け入れようとしてくれた事。
行為によって、出血もした。
あれが初めてじゃないなんてこと、あるのか?
「やっぱり、何かの勘違いじゃ……」
「黄瀬さん、"処女膜再生手術"って、知っている?」
……処女膜再生、手術。
聞いたこと、ある。
クラスの男子が、なんかふざけて話してた。
何回でも処女になれんだぜ、って。
「一応……聞いたことは」
「私があの子を引き取った時に、最初に受けさせたの。あまりに悲しい奪われ方をした"初めて"を、きちんとやり直しさせてあげたくて。でも、その記憶ごと、失ってしまっていたのね」
みわの背中にのしかかる過去が、遠慮なく重みを増してくる。
みわが押し潰されないように、何が出来るんだろう。
とにかく今は、頭が痛い。