第74章 惑乱
「コントロール……できるように、なるのかな」
それは、ぽつ、と小雨のようにささやかに、そこにそっと置くように。
そんな風にみわは呟いた。
突然表情のなくなった顔は、漂白したかの如く、白い。
「どしたの? 出来るっスよ、みわなら」
努力家で、マジメで。
才能があって努力するみわに、出来ないことなんか、あるワケないじゃねぇスか。
怪しいとは思ったものの……気功の達人とかは、みわが言ってたような、雰囲気で相手を把握する……ような事が出来るらしい。
みわの洞察力、観察力、記憶力……色々な経験が、その力の源になってるんだろう。
一見、非現実的だけど……そんなこと言ったら、はは、オレのコピー能力の方が、よほど非現実的だろうな。
「私……自分の感情ですら、コントロール出来ないのに……」
みわの声が、瞳が、揺れた。
彼女のこころの揺れを表しているかのように、少しずつ、湿り気を帯びてゆく。
気持ちが、また現実側に戻ってきた。
不安定。
こんなみわ、見たこと無いくらい、不安定だ。
「みわ、ダイジョーブ、なんも心配ないっスよ」
……なんて、気休めにもなんないかもしんないけど、オレもなんて言ってあげたらいいのか、正直、分からなくて。
やっぱり、今はとにかく身体を休めないと、ダメだ。
健康な精神には健康な……なんかあんまりハッキリ覚えてないけど、そんな感じの事を言ってたヒトが居たはずだ。
「少し横になって、みわ」
ベッドを占領していたオレはさっさとどいて、みわを横たわらせた。
「ごめ、ごめんなさい、涼太……」
「だから、なんで謝るんスか。みわは、悪くないんだか」
「私……っ、死んででも、守れば良かった」
……何、なん、だって?
「涼太が、愛してくれたのに、私、全部台無しにして、私……死んだ方がっ、っ、良かった……!」
「みわ、そんな事言わないで」
「涼太、ごめんなさい、ごめんなさい、私、汚れて、ごめ……!」
突然、堰を切ったように溢れ出た本音。
どんどんと勢いを増して、せっせと築いた堤防をあっという間に決壊させていく。