第74章 惑乱
病室に流れるのは、穏やかな時間。
今、こんな事してる場合じゃないのに……って思ってから、ふと、気が付いた。
普段通りにしてないと、みわの精神が保たない、のかもしんない。
無意識に、普段通りにしようとしてしまっているんだろうか。
いつものオレたちで、いいんだろうか。
みわがそう望むのなら。
……無理させない程度に。
「それにしたってさ、みわ。あの状態でよく分かったっスね? オレの足のこと」
フツー、分かんないよな?
引きずってるわけでもなかったはずだし。
更に、みわはこんな状態なのに。
「うん……なんとなく、重心のかかり方がおかしいって……」
「そんなのに気付けるって、スゴくないスか?」
「うん……あのね、ウィンターカップの直前くらいから……選手のちょっとした様子からね、調子が分かるようになったの」
そりゃ、初耳だ。
「あれっスか? 誠凛の前のカントクさん……リコサン? みたいに、数値で見えちゃうとかってヤツっスか?」
確かあれは、リコサンの小さい頃からの環境がそうさせた、って黒子っちから聞いたけど……。
「違う違う、あんな凄い能力じゃなくてね、もっとぼんやりとした……オーラ? みたいなものを感じるっていうだけ」
「オーラ?」
なんか、占いとかでよく聞くやつ?
みわ、話が怪しげになってきたっスよ?
「なんていうんだろう……調子の悪いところが、揺らいで見えるっていうか。私も、最近のことだからまだ、上手く説明出来ないんだけれどもね」
「へぇ……」
「あ、今怪しいって思った?」
「いやまあ、ちょっとだけ……でも、それが自分でもコントロール出来るようになったら、スゴイ事じゃねぇスか」
やっぱりみわも、タダモノじゃないっスね。
その力、磨いたら大きな武器になる。
オレが心配しなくったって、みわは誰よりも努力して、その力をモノにするだろう。
オレと、同じ夢を持てるひと。
……早く、いつものみわに戻してあげたい。