第74章 惑乱
しまった、半ば強引に抱き上げてしまったから、体勢が崩れてしまって、ひねったりした?
慌ててみわを下ろす。
ヘンだと言う部分を、見てあげないと。
一瞬心配になったが、オレがみわの足を見てあげる前に彼女は跪き、オレの左足に触れだした。
左足がヘン……
って、オレの?
「涼太……これ、いつからなの?」
「これ……って、なんスか?」
聞き返しておいて、ふと思い出した。
左足……そうだ、アメリカでの練習後、疲れて寝落ちてしまった日の翌日……左足のふくらはぎに違和感があった。
痛みもないから、気にしてはいなかったんスけど……?
「ここ、筋が……放っておくと痛めちゃうし、全身に負担もかかっちゃう。ちゃんとしておかなきゃ、だよ」
「あ……うん、そっス、ね」
その物言いといい、動きといい、いつものみわだ。
バスケや選手の事になると、まっすぐで。
他に何も見えなくなる位、必死で。
いつもオレのことばかり。
まるで、今までの事が夢だったように。
ホッとした。
まだ、みわらしい部分がここにもちゃんと残っていた。
全部が壊されてしまったのではない事に気付き、オレは無意識に安堵のため息を漏らしていた。
「涼太? 痛む?」
心配そうに上目遣いをしてくるみわの頬には、痛々しいガーゼ。
無数のアザをつけている彼女にそのまま返したくなる状況だ。
……なんで、こんなに優しい子が。
無理矢理鎮めた怒りが、またふつふつと湧き上がってくる。
落ち着け。落ち着け。
これ以上みわの精神的ストレスを増やしてどうする。
「ダイジョーブ、痛くないっスよ」
そう言って、みわを再び抱き上げようとすると、これ以上ないくらいに抵抗された。
「だっ、だめ……! こんな状態で重いものを持つなんて、とんでもない!」
……そうは言われても、まだ7階。
9階の彼女の病室に辿り着くためには、階段を上んないと、いけないんスけど……。
その身体じゃ、無理だって。
そう説得しても、大丈夫、やれますと謎の言葉の一点張りでみわは階段を上りだした。
ちょっと(だいぶ?)ガンコなところもいつものみわで、困りながらも嬉しいと思う自分がいた。