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【黒バス:R18】解れゆくこころ

第74章 惑乱


何が、起きたのか。
一瞬、分からなかった。

……涼太が、
スズさんを、
……殴った。

頭の中はその事実と、何故という疑問と、もう色々な感情が入り混じって、訳が分からない。

顔を上げた彼女を……
もう一度、パシン。

音にしたら可愛く感じるかもしれないけれど、スズさんの頬は真っ赤になっている。

誰も、一言も発さなかった。

だめだよ。
やめて、涼太。

そう思うのに、口が動かない。
身体が、動かない。

涼太の背中から迸る怒りが、その怒りがもたらす迫力が、そうさせているのだろうか。

どうしよう。

スズさんも、何も言わない。
涼太も、何も言わない。

繰り返される平手打ち。

お願い、おばあちゃん、赤司さん、誰か、止めて。

そう思っても言葉が出ないまま。
遂に、スズさんの大きな瞳から、ぽろり、涙が零れた。

「すみません……でした……」

消え入りそうな声で、涼太を見つめながら。
涼太は……彼の背中に、燃え盛る炎が見えるかのようだ。

「言う相手が、違うだろ」

その殺気にも似た怒気を纏った涼太が、まるで生ゴミでも見るような目つきで、高いところから彼女を見下ろす。

「アンタのせいで、みわがどんな思いをしたか、分かってんのか」

「……」

ゾクッとするような、刺すような視線。
ぐす、ぐすと鼻を啜る音が聞こえる。

「神崎せんぱい……すみません、でした」

頭が床につきそうなくらい、深々と頭を下げるスズさん。

「……アンタのつまんねー保身のために、みわが、みわは」

「も、申し訳ッありませんでし、た……!」

スズさんは、土下座をし始めた。

「や、やめて!」

やっと、それだけ出てくれた。
少し、口の端を噛んだ。

やめて。
こんな事をして貰いたいんじゃないの。

スズさんの頭を上から踏み付けでもしそうな涼太の暴走を、なんとか止めなければ。
そう思うのに、やっぱり足は動かなかった。



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