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【黒バス:R18】解れゆくこころ

第74章 惑乱


気が付けばエレベーターは7階で私たちを吐き出し、またどこかで呼ばれて去っていった。

「みわ、ベッドに戻った方が」

優しく背中をさする手に、心配そうにかけられる声。

「ごめんなさい、もう平気。ちょっと……嫌な事、思い出しただけだから」

大丈夫、涼太が居てくれるでしょ、大丈夫……。

ドクドクと不規則に脈打つ心臓を一喝して、ふらりと立ち上がる。

「……無理だけは、しないで」

「あ、うん……」

支えてくれる腕は変わらず逞しいのに、ちらりと見えた涼太の表情は、普段よりも酷く濁って曇っているように見えた。




それから少しだけ、リノリウムの床を蹴っていると、病室とは違う造りのドアの前で涼太は立ち止まった。

引き戸になっている病室とは違い、ドアノブを回し、引いて開けるタイプのドア。

ドアの半分を占めているガラスは割れたような柄になっており、向こう側の様子を窺い知る事は出来ない。

コンコン、涼太がドアをノックをすると中から赤司さんの声。

「……入るっスよ」

軋む音すらなくすんなり開いたドアの向こう側は、机と椅子だけが用意されている、シンプルな部屋だった。

ここにいるのは3人。
おばあちゃんと、赤司さんと、スズさん。

「神崎さん、水を用意するから、座って」

「すみません」

涼太に支えて貰っていた手を離して、見た目よりもずっとふわふわしている椅子へと腰を下ろした。

「……ふぅ……」

ひとりでにため息が漏れる。
怖かった。……辛かった。

あんな、エレベーターひとつであんな気持ちになるなんて。

「はい」

「赤司さん……ありがとうございます」

赤司さんがウォーターサーバーから注いでくれた水のカップを受け取り、喉へ流し込む。

喉を潤す爽快感に、またため息が出た。

涼太はそんな私を見て、椅子には座らずに、スズさんやおばあちゃんがいる窓際の方向へと歩き出してしまう。

「神崎先輩……」

スズさんが私の名前を呼んで、少し離れた彼女に目を向けようとしたその時……

パシンと、乾いた音が部屋中に響き渡った。



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