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【黒バス:R18】解れゆくこころ

第74章 惑乱


視界が、揺れる。

おぼつかない足取りにならうように周りの景色も動いて、普段の何倍もの体力を使う。

涼太が支えてくれなかったら、数歩歩いて動けなくなってしまっていただろう。

辿り着いたエレベーターホールには、9という数字のプレートが貼ってある。
そのプレートの装飾は、まるでテレビに出てくる高級ホテルのそれのように荘厳で。

どうやら、ここは9階らしい。

「何階まで、行くの……?」

「ああ、隣の病棟の7階っス」

落ち着かない気持ちでエレベーターを待つ。
なんだろう、この不安感。

ポーンというキレイな音とともに、エレベーターの扉が開いた。

「……っひ」

その、電子音が。

「みわ?」

目の前にぽっかり開いたエレベーターが、地獄への入り口に見える。

殴られ、蹴り飛ばされて……
あの時の痛みが、恐怖が、鮮明に思い出されて。

背筋を這い回るような不快感。

嫌だ、怖い。

「……っ」

生唾を飲み込んで、涼太の後ろに隠れるように、寄り添った。

「みわ、どしたんスか」

大丈夫、大丈夫。
誰もいない。

「ね、みわ」

「……へいき、ごめんなさい」

涼太に掴まったまま、なんとか乗り込んで下を目指すと、エレベーターは8階で止まった。

ポーン、この音が不安を煽って仕方ない。

誰も……乗って、来ない?
いや、またドアの閉まる直前に……。

ドキドキしながらカゴの外の様子を見ていると、酷く呼吸が苦しくなって、酸素が送り込まれてこなくなった。

「か……はっ、は、はぁッ」

「……みわ?」

ゼイゼイと浅くて薄い呼吸を繰り返していくうちに、目の前がチカチカしてくる。

「みわ、落ち着いて。ゆっくり息、吐いて」

「っあ、は、はぁ……ッ、っは」

ぎゅっと涼太の胸の中に包まれて、頭上から降ってくる彼の声を聞いていると、少しずつ呼吸が整ってきた。

彼の言う通りに、吐いて、吐いて、吐いて、吸って。

彼から紡がれる優しい音に合わせて呼吸を整えていると、いつの間にか死にたくなるような息苦しさは消えていた。



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