第20章 夏合宿 ー3日目ー
宿に着いて荷物を降ろしている時も、無言。
「あ、黄瀬くん、ありがとう……」
軽くお礼を言って、その場を去ろうとした時。
「……今夜は寝る前の少しの時間でいいから、オレにちょうだい」
言葉は優しいけれど、有無を言わさない迫力があった。
「分かった、じゃあ……お風呂上がったらメールするね。もし黄瀬くんが寝ちゃってたらまた日を改めてでも……」
「起きてるから。待ってる」
そういうと、私の頭をクシャッとして去っていった。
笠松先輩がよくやるやつ。
……黄瀬くん、何にそんなに怒っているの?
本当に分かんない……!
1日目と同じように、食事後に各部屋を回っていく。
今日は、2軍の部屋では特に異常がなかったので、初日よりも早く終わった。
お風呂で手早く汗を流す。
大浴場を出るときには、また待ち伏せをされていないかと少し警戒したが、人影はないようで安心した。
部屋の前まで戻ると、同じく部屋に入ろうとしている黄瀬くんの後ろ姿が見えた。
どこかに行っていたのかな。
「……あ、みわっちおかえり。もう時間、大丈夫っスか?」
口調がいつもの黄瀬くんに戻っている。
「あ、うん お待たせ。もう大丈夫。……待ってるね」
部屋に入って着替えなどを素早く片付け、ティーバッグのお茶を淹れると、すぐにノック音が響いた。
「……はい……」
「みわっち、オレ」
ドアを開けると、いつもの黄瀬くんが立っていた。朝の雰囲気ではない。
でも、やっぱりどこか違和感があるような……。
「あの、お茶淹れたからそこ、座って」
「ん、ありがとう」
2人でお茶を飲む音だけが部屋に響く。
切り出し方を悩んでいると、黄瀬くんから話し出してくれた。
「……みわっち、昨日のことだけど。
過去の女の事、ずっと気にしてたんスか? この間、キス嫌がったのもそれが原因?」
黄瀬くん、声は穏やかだけど、心中穏やかでない雰囲気が出てる。
当たり前だよね……。
「いつも気にしてなんていなかったけど……この間のキスの時のは、そう……」
「なんで? 誰かになんか言われたんスか?」
その質問に、言葉が詰まる。
噂に振り回されるような女って、やっぱり嫌われるよね……。