第20章 夏合宿 ー3日目ー
合宿3日目。
気になることも考えなきゃいけないことも山ほどあるけど、まずはマネージャーの仕事をちゃんとこなさなきゃ。
2日間やってみて、だいぶ無駄な所がわかってきた。
今日はもっと、効率的に動けるはずだ。
昨日早く休ませて貰った分、今日はスピードアップしなきゃ。
夜は黄瀬くんとの約束があるけど、それまでは集中!
今日も、体育館へは黄瀬くんと車で移動だ。
後部座席に乗り込んできた黄瀬くんの顔を見て、思わず息を飲んだ。
これは……怒りの表情?
試合中の集中した顔とも違う。
普段は絶対に人に見せない顔だ。
とても話し掛けられる雰囲気ではない。
目すら、合わせるのを躊躇った。
重苦しい空気での移動。
一体、何があったんだろう。
体育館に着いて、荷物を降ろしていると黄瀬くんも手伝ってくれた。
けれど、この時も一切の会話はなく、終始無言だった。
「黄瀬くん、テーピング……」
「……サンキュ」
今日、日中交わしたのはこの一言だけだった。
「なんか今日の黄瀬は、鬼気迫るもんがあるっつーか……機嫌が悪いだけか?」
練習中、先輩方も口々に言っていた。
プレーが自分勝手になったりもしないし、練習に影響が出るほど、外に当たり散らしたりということは全くないのだけれど、休憩中など、合間に見せる表情が怖かった。
「お疲れ様でした〜!」
なんとか、3日目は無事に終了……。
「神崎、今日は体調どうだ」
「今日は大丈夫です! 3日目になって、ようやく色々掴めてきたというか……」
「前半の合宿も後2日だから、よろしく頼む」
「はい!」
今年の海常の夏合宿は2回に分けて行われる。
いつもは下旬の1回だけだったけれど、今年は合宿所に空きが出て、2回使うことが出来るようになったのだ。
合宿中にひたすら自分の基礎能力を上げ、また通常練習で弱点と可能性を磨き、最後の合宿で仕上げをする。
だから、黄瀬くんがこれ以上になく集中しているだけかもしれないけれど、それにしても、あんな風になるかな……?
桐皇戦で見せた雰囲気ではない。
帰りの車は、行きと同じように後部座席に2人で乗車したものの、やはり会話はなかった。
今日、夜話すという空気でもなさそう……。
どうすればいいんだろう。