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【黒バス:R18】解れゆくこころ

第74章 惑乱


なんかで聞いた事がある。
一生のうちに流す涙の量って、決まってるんだって。

赤ちゃんの頃いっぱい泣いた子は、成長して大人になってから、泣かなくなるって。

カミサマ、みわはもう、十分に泣いたっスよね?

もう、あとは笑うだけでいいっスよね?
オレのそばで。

「とにかく今はさ、何も考えずに、体を休めて」

こころは、休まらないだろう、きっと。
今までだって、みわはずっと過去に苦しめられてきたんだ。

片手で彼女の右手に触れていたけど、もう片方の手も使って、包み込むように覆った。

微かに動く指。
指先は、氷のように冷たい。


「オレが、怖い?」


覗き込んだ大きな瞳が、次第に湿度を増していく。

「こわくない……」

ハッキリとそう言って、瞳を伏せて首を横に振った。

無意識に息を止めてしまっていたのを、静かに吐き出す。

「抱き締めていい?」

みわの首が縦に動いたのを確認して、その身体をゆっくりと腕の中に閉じ込める。

厚みが減った柔らかい身体、ふわりと香るみわの匂い。
それに混ざって、かすかに香る……消毒液の臭い。

生きてて、良かった。

「みわ、生きてて、本当に良かった……」

聞くだけで耳を覆いたくなるような状況から、生きて帰って来てくれただけで。

でも。

「助けてあげられなくて、……ごめん」

言葉選びをしている余裕がなくなって。
オレが、オレが助けてあげなくちゃ、いけなかったのに。

彼女を労わるように背中を撫でると、ひゅう、と息を吸う音がした。

「りょう、た……」

声が濡れて、震えている。

「うん……」

「こ、わ……かっ、た……」

その背中を優しく、優しく撫でる。
オレも、目の奥が熱くなってきた。

「もう、大丈夫。大丈夫っスよ……」

「涼太、うっ、う、こわ、かった……!」

堰を切ったように溢れてくる言葉と涙。

オレは、みわが落ち着くまで、ずっとその身体を抱き締め続けていた。



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