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【黒バス:R18】解れゆくこころ

第74章 惑乱


かたん、と微かに靴と床が擦れる音を立てて、お祖母さんが席を立つ。

「少し席を外すわね、みわ」

みわは、躊躇いを見せた後に頷いた。
オレも軽く会釈をして、小さくなっていく背中を見送る。

ピシャリ、ドアが閉まった音を合図に、包帯に覆われた左手にそっと触れた。

跳ねるように反応する手。
困惑の表情。

「……涼太、あの、私」

「なんにも言わなくて、いいって」

一所懸命に、何かを言おうとしているのが分かる。
無理しないで。
今はただ、みわのそばに居たい。
気持ちを整理してから会うなんて、冗談じゃない。
取り乱しちゃうって? 取り乱してよ。
みわのタイミングで、話して。
ちゃんと、受け止めたいから。

どこまで伝えればいい?
みわの気持ちに重しをつけてしまわない距離が知りたい。

でも今、みわは驚きで平常心を失っている。
今はそんな事を考える段階じゃない。
ゆっくり、ゆっくり。

「でも、」

「じゃあ、オレの質問に答えて。答えられなかったら、無理に答えないで」

そう言うと、みわはこくこくと首を縦に振った。

「ご飯、ちゃんと食べてるっスか?」

みわは、少し躊躇って、俯きながら首を小さく横に振った。

頬がこけて、鎖骨は更に浮き出ている。
ロクに食べれていない証拠だ。
あまりに酷いと、点滴で栄養摂取しなければならなくなるかも……。

「食事制限ないなら、オレなんか買ってくるっスよ」

「……食欲、なくて」

「そっか……」

無理してストレスになっても良くない。
医師に相談、するべきことなんだろう。


「みわ……眠れてる?」

みわは、さっきよりも更に小さく、首を横に振った。
目の下にくっきり張り付いたクマ。

火を見るより明らかだ。
質問にすらなってない。

「お薬……出して貰ってる、の」

申し訳なさそうに言うその姿があまりに儚くて、風と共に飛んで行ってしまいそうだった。


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