第74章 惑乱
みわの気持ちが落ち着くまで、
とか
今は刺激になるようなことは良くない、
とか
みわはオレのことを思って、
とか
オレは何ができるのか、
とか
距離を置いてあげた方がいいのか、
とか
性能の良くない頭で色んなことを考えて考えて考えてたんだけど、悩んでたんだけど、それを聞いてそんな分別は一瞬でどこかへ消えていた。
足が、勝手に動く。
みわのベッド脇に座っているお祖母さんと目が合って、その目が驚きで見開かれていく。
通路を抜けた先、余計なものが一切ない非常に殺風景な部屋……赤司っち曰く、自殺防止の為の対策が施されている部屋らしいが、窓も外側のシャッターのような物が閉まっているせいか、ひどく寂しく感じる。
目が痛くなるほど白いシーツの上に……みわは居た。
自ら起き上がる事はしておらず、ベッドのリクライニング機能で、上半身だけが起き上がっている状態だ。
さらさらに艶めいていた黒髪は艶をなくし、頬を覆う大きなガーゼに、薄く開いたままの口元には赤黒いアザのようなもの。
目の下にはくっきりと黒いクマが浮かんでおり、布団からわずかに覗く色白の肌は、いつもに拍車をかけて白い。
そして、その目は虚ろで、まるで色が無かった。
オレが現れても、視線はどこかへ固定されたまま、動かない。
「みわ」
その傷付いた痛々しい姿に、名前を呼ぶのが精一杯だった。
みわは、ピクリと肩を動かして、声のする方向……こちらを見た。
その動きはまるで、壊れた機械人形のようで。
「…………え」
固まったみわと目線を合わせたまま、オレはお祖母さんの横に置いてある、木箱のような椅子に座った。
「うそ、どうして」
唇がわなないて、大きな黒目が揺れている。
「ごめん、お祖母さんは悪くないっスよ。オレが、勝手について来ただけだから」
「え、あ、あ」
「みわ、なんにも言わなくていいから」
驚いて布団から飛び出た手には、包帯が巻かれていた。