第74章 惑乱
考えがまとまらないまま、暫く病室の前で蹲っていた。
抱え込んだ頭が痛い。
みわの気持ちが、あの悲痛な声とともに流れ込んでくるようだ。
結局オレが、みわの負担になってるのか?
……
物音一つしない空間にいると、かえってザワザワと胸が落ち着かないことに気づく。
だめだ、ここでこうしていても仕方ない。
ごくりと唾を飲み込み、再び病室へと足を踏み入れる。
まだ、お祖母さんはみわと話をしているようだ。
ぴちゃん、と響く音に目をやると、締め方の緩かった蛇口が、文句を言うように一滴一滴、雫を吐き出している。
そんな微かな音がみわに届くわけはないのに、何故だか焦って蛇口を締めた。
「……それはわかったけれど、黄瀬さんはどうするんだい? いつまでも隠せるものじゃない事くらい、みわだって分かってるんだろう?」
お祖母さんの、声。
「……」
「彼なら、ばあちゃんのお見舞いに行くと言ってくれるんじゃないかい? そうなったら、時間の問題だよ」
……もう、既にそういう事態になっている。
申し訳ないやら何やらだ。
「……」
「みわ」
「……わかってる。涼太には、ちゃんと話す」
決意したような、覚悟したような口調だ。
でも、良かった。みわがそう言ってくれて、ホッと胸をなで下ろす気持ち。
ちゃんと、オレに話すと思い直してくれたことに、安堵した。
「そうかい、じゃあ黄瀬さんに来てもらおうかね」
「待って、おばあちゃん。涼太には、私が声をかけるから」
「ん?」
「ちゃんと、こころの準備が出来たら、話す。
今は多分、取り乱しちゃうと思うから……卒業式までには、話すよ。もっと、落ち着いてから」
……なんだよ、ソレ。