第74章 惑乱
「涼太には、言わないで!!」
オレと赤司っちは、その声のボリュームに驚き、肩を震わせた。
まるで壊れたスピーカーだ。
自分で、調節が出来ないんだろう。
赤司っちは、オレに目で合図をして、病室を静かに出て行った。
話を聞いてしまわぬようにと、彼らしい気遣いだ。
「おねがい、いわないで」
今度はまた、消え入りそうな声。
みわ、声が震えてる。
泣いている声……ではない。
恐怖、そう、恐怖だ。
怖かったんだろう。
どうして、オレに知られたくないの?
オレも、同じ男だから?
オレには、会いたくない?
みわ、ごめん。
オレが、アメリカなんかに行っていたからこんな事に……
「みわ。どうして黄瀬さんには言っちゃいけないんだい? 黄瀬さんは」
「……涼太が、アメリカに行っている間にこんな事があったって……知ったら、涼太は絶対に、自分を責める。それだけは、絶対にだめ」
掠れた声で、でもハッキリと、みわはそう言った。
……なんで?
なんでみわは、オレの心配なんか、してんの?
傷付いたのは、みわだろ。
辛い思いをしてるのは、みわだ。
なんで、オレのことなんか。
「涼太には……涼太には絶対、言わないで。涼太は、世界で活躍できるひとなの。私が足を引っ張るわけには、いかないの」
「みわ、みわの気持ちは分かるけれどもね、黄瀬さんは、みわの事をちゃんと考えてくれるひとだから」
「だから、だからだめなの。春から離れ離れになるのに、余計な事で煩わせたくない。お願い、おばあちゃん」
懇願する声。
堪らず、オレも病室を出た。
足から力が抜けて、その場で座り込む。
オレ、みわにこんな風に気ィ遣わせて何やってんだ。