第74章 惑乱
静かだな、と思った。
昼間の、面会時間中なのに……こんなにもひとの声がしないというのも不気味だ。
9階、特別病棟。
赤司っちと、お祖母さんと3人で歩く廊下。
他には、人影すらない。
一見、病院とは全く分からない高級な造り。
ホテルと言われたら信じてしまうだろう。
赤司っちによると、病状がかなり特別なもの以外に、一般市民と同じ病室には入れないような著名人なども利用しているとか。
なんで「階」なのに特別「病棟」なのかと思っていたら…ナルホド、一般病棟とは建物自体が別になっているのだ。
一般病棟は、8階建て。
隣接された建物は12階建てで、そこの9階から上が"特別病棟"扱いになっているらしい。
"友人"であるというだけでそんな場所を利用させることができるとは……隣を歩く同級生が、遠い世界の住人のように思える。
赤司っちと、先ほどの事については話していない。
敢えて、ふたりとも話題にするのを避けていた。
……スズサンもついて来ると言っていたが、オレが正気で居られる自信がなくて……別室で待って貰う事にした。
やはり許せる気がしない。
廊下の奥、角部屋。
近付いてくる、みわの病室。
心臓が、飛び出るんじゃないかと思うほど、跳ねてる。
試合の緊張感とは全く違う性質の、何か。
「黄瀬、大丈夫か」
赤司っちが何か言ったような気がするけど、聞こえなかった。
聞き返しもしなかった。
赤司っちも、二度は言わなかった。
病室の前、深く呼吸をする。
名札は出ていない。
著名人に対応するためか。
赤司っちが、殆ど音のしないスライドドアを開けると、病室の中が見える。
入り口入ってすぐ右側には、洗面台が。
正面は廊下のような通路になっていて、恐らくその先にベッドがあるのだろう。
「神崎さん、入るよ」
赤司っちはそう言って、洗面台で手を洗ってから通路を歩き始める。
続いて、お祖母さんも同じように。
オレも、と思ったら、赤司っちはオレを手で制止した。
そこで様子を見ておけ、と言わんばかりに。