第74章 惑乱
視界が、開けていく。
無機質な、白い天井。
ここ、どこだ。
「──みわ」
そうだ、みわに会いに来たんだ。
みわに、会いたい。
みわ。
「黄瀬さん」
動かした視線の先にいるのは、……みわのお祖母さん。
「あれ、オレ……」
「赤司さんが……止めてくれたの」
……スズサン。
オレ、カッとなって……。
ああ、赤司っちのパンチが入ったって事か。
道理で、頭がクラクラする。
「身体はどう?」
優しい眼差し。
「……オレなんか、どうだっていいんス。みわは、もっと……」
それを向けて欲しいのは、オレじゃない。
もっと痛くて怖い思いをしたのは、みわだ。
「黄瀬さん。事件の事を絶対に貴方に言うなって、言われていたの。
でも、お願い。みわを助けて」
「オレに……出来ること、あるんスか」
あるんだろうか。
傷ついたみわに、出来ること。
みわの過去を知るたびに、当時オレが側にいれば、っていつも思ってた。
でも、実際のオレはこんなにも無力で。
男のオレは、みわに何をしてあげられる?
「みわね、殆ど喋らなくなってしまったの」
「……え?」
そんな、バカな。
つい、昨日。
みわと電話で話したばかりだ。
行けなくて、ごめんねって。
何度も、ごめんねって。
確かに元気のない声だったけど、まさかこんな事が起こっていたとは思えないほど、いつものみわだった。
どんな気持ちで、あの電話をかけてきたんだろう。
「本当よ。誰の呼びかけにも、殆ど答えられなくて。……それが、心配かけまいと、昨日は自分から貴方へ電話をかけた。あの子にとって、貴方の存在は何より大きいんだと思うのよ」
……みわ……。