第74章 惑乱
「オレがアメリカ行った日……午後に、みわと話したんスか? なんて?」
「いや、違う。神崎さんの携帯から電話があったんだ。かけてきたのは……」
赤司っちの声と重なるように、ごく小さな音でコンコンとノック音が聞こえた。
「どうぞ」
赤司っちのその言葉に続いて、部屋に入って来たのは、オレもよく知る、小柄で気が強い、海常のマネージャー。
「……スズサン? は、なんで?」
スズサン、だ。
どういう事だ?
なんで彼女が?
ますますわけが分からない。
「彼女から話した方が早いだろう」
赤司っちに促され、スズサンは彼の隣に座った。
「黄瀬先輩……っ、すみませんでした!!」
深々と頭を下げられても、リアクションの取りようがない。
「スズサン、何があったか最初から話してくんねぇスか、いきなり謝られても」
「あっ、そ、そうですよね……すみません」
話が進まない事にイラつきを覚える。
アンタの謝罪なんかどうだっていいんだよ、さっさと話せよ……そんな風に怒鳴りつけたくなる本音を、ぐっと抑え込んだ。
「私……ずっと、AVへの出演を強要されてたんです」
……えー、ぶい?
その言葉を皮切りに、スズサンは状況を話した。
スカウト詐欺に遭ったなどと、厳しく、人格者の父には相談できなかったこと。
撮った写真をインターネット上で公開すると脅され、さらに沢山の裸体写真を撮られたこと。
女の子を紹介すれば、二度と勧誘はしないと騙されたこと。
みわならなんとかしてくれるのではないかと、縋るように彼女に頼ったこと。
しかし、結局具体的に相談出来ずに事務所まで行ったため、男たちに捕まり、ふたりともAV撮影をされそうになったこと。
……みわが、スズサンを逃がして……被害に遭ったこと。
彼女のあまりの身勝手さに、気が付けば奥歯が砕けそうなほど食いしばっていた。