第74章 惑乱
翌日。
明け方から、雨が降り出していた。
みわと何かあると、かなりの確率で降る雨。
悪いことばっかりじゃなく、いいことも沢山あった。
恵みの雨になってくれよ、ガラにもなくそんなことを思いながら、お祖母さんちの玄関を出る。
どんよりと厚く何層にも重なった雲が、希望という光も遮っているようで、憂鬱な気持ちに拍車がかかる。
足元が悪いからと、病院まではタクシーで移動する事になった。
車窓に映る景色が、だんだんと濡れていく。
いつもよりも影が濃いその景色に、気持ちが沈んでいくのが抑えられない。
見た事のない景色の中を抜け、1時間ほど走っただろうか……タクシーは病院へと到着した。
大病院や、大学病院といった規模ではない。
だからといって小さな医院というわけでもない。
きっと周辺住民の大半はここにお世話になっているであろう、この中規模の病院は、例に漏れず白く、清潔感のある建物だ。
異様な緊張感に包まれて、ごくりと唾を飲んだ。
タクシーは、正面玄関前のロータリーに停車、オレは先に降りてからお祖母さんの手を取り、下車を補助した。
「ありがとう、黄瀬さん。……あ」
お祖母さんの視線が、オレの背後へと向けられた。
まさか、みわ!?
そう期待して勢いよく振り向くと、目の前には……
「え……赤司、っち?」
赤司っち……赤司征十郎が、神妙な面持ちで佇んでいた。
赤司っちに連れて行かれたのは、みわの病室ではなく、談話室のような空間だった。
柔らかい椅子にテーブル。
医師が患者家族へ病状を説明する際に使用するのかなと、テレビドラマからかき集めた情報を、想像に当てはめた。
「黄瀬」
「うん」
オレとお祖母さんが並んで座った正面に着席している彼は、試合中よりも険しい顔で続けた。
「神崎さんの携帯から連絡があったのは、お前がアメリカへ発った日の午後だ」
その薄い唇が、事実をゆっくりと語り出した。