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【黒バス:R18】解れゆくこころ

第74章 惑乱


石油ストーブがついた、居間。

空気が冷えているからか、みわがいないからか、何故かいつもよりも広く感じる。

ストーブを取り巻くもやみたいなものが、砂漠の蜃気楼のように見えて、ここは非現実ではないかと一瞬勘違いしそうになる。

お祖母さんが出してくれたお茶があったかくて、湯呑みの熱で凍えた指先を温めた。

「あの……みわは」

そこまで言って、お祖母さんと目が合う。
その瞬間、察した。

何か、良くないことが起こってるって。
いつもオレたちを包んでくれるようなお祖母さんの笑顔が、ない。
無表情で、強張っている。

なんだ?
何が、あったんだ?
事故、とか?
いや、悪い想像はよせって。

たまたま、だ。
ちょっと買い忘れた物があって、とか。
あきサンと会う事になって、とか。
いや、桃っちかも?

「みわね、暫く帰って来れないの」

「……え」

時が、止まる。

みわが帰って来れない理由。
何がある?

暫く、ってそもそもどれ位だ?
今夜?
それとも数日?

「ちょっと、親戚のところに行っているから……」

……いや、お祖母さん……そのウソの言い訳は、アウトっスよ。
みわには、遊びに行くような親族はいないはずだから。

お祖母さんはオレを見て、小さくため息をついた。

「黄瀬さんには、こう言っても誤魔化せないわよね……」

「なんスか。本当の事、言ってください」

オレのその言葉から実にたっぷり数分、お祖母さんは言うか言うまいか悩んだ。

時計の秒針の音だけが、声のない静まり返った空間に響く。

「みわには、言わないで欲しいって頼まれたんだけどね……」

普段、みわとの約束を破る人ではない。
みわが黙っていてくれと言えば、墓場まで持って行くだろう。

それなのに、今こうして言ってくれるのは。

「みわ……入院しているの」

みわの身に、何かが起きているからだ。


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