第74章 惑乱
……そう決めたのに、何度電話してもみわには繋がらなくて、メッセージアプリも既読表示にならないままだった。
もしかして、危ない状態……だったりするんだろうか。
いやいや、悪い想像なんてするもんじゃない。
きっと、何か連絡出来ない事情があるんだ。
……どちらにしろ、みわは一度は必ず家に戻って来るだろう。
病院に泊まり込む事は出来ないはずだ。
ストーカーじみていると思いつつも、嫌な予感を拭い去れないまま、みわの家の前で、彼女の帰りを待つ事にした。
擬音にして書き出したらピューピューという表現がピッタリな木枯らしにさらされて、息を白くさせながらオレはみわを待った。
みわから貰ったイヤーマフ、今年も大活躍。
空を見上げると、雲が厚い。
雨の予報、あったっけ?
ああ、この雲は飛行機から見ると、どんなんだろうな。
そんな妄想で現実逃避を図るほど、なぜだか分からないけど、不安だ。
胸のあたりに、違和感を感じる。
みわ、今どうしているんだろう。
会いたい。
顔を見るだけで、それだけでいいから。
この時期は、日の入りも早い。
19時にもなると、辺りは真っ暗だ。
電灯の光から生み出された自分の影が、別の生き物のようで、不気味だった。
何時間も立っていたせいか、既にもう足は感覚がなくなってる。
軽く屈伸をして、続けて、大きく伸びをした。
「……帰る、か」
これ以上ここにいて、オレまで風邪引いたら意味がない。また明日来よう。
ふうとひとつ息を吐いて、帰ろうと駅の方角に歩き出すと……前方から、見慣れた人影が向かってくるのが見えた。
え?
なんで?
それは、予想外の人で。
オレの想像がまるで間違っていた事を示していた。
向こうも、オレを見つけて驚いた表情。
「あ、あの……ども、っス」
「黄瀬さん……こんばんは」
体調を崩していると言っていたお祖母さんが、そこにはいた。