第73章 散華
黒。
くろ。
他に何にも、勝てない色。
真っ黒に塗り潰されちゃったら
必死に守ってきた
大好きな色達が
一瞬で
いなくなる。
黒、好きな色のはずだったのに、
今はその内包する深さが、暗さが、
とてつもなく、こわい。
「ぅ、うう」
ズルズルと髪を引っ張ったまま床を引きずられ、そのままエレベーターの前で停止する。
殴られた頬の痛みが頭に回り、目を開けているのが辛くなるほどの頭痛に見舞われていた。
エレベーターが上がってくる気配。
お願い、誰か、誰か来て……!
「さあて、ウサギ狩りの成果は如何かな?」
それが、スズさんの事を言っているんだと分かってから、数秒。
たった数回息をするだけの、僅かな間。
ポーン
到着したエレベーターは、無人だった。
スズさんが捕まっていない事に安堵しながら、まだ助けが来ないことに絶望した。
「なんだ、下で先に味見してんのか」
下……確か、地下は駐車場だったはずだ。
スズさん、スズさん、無事でいて……!
引きずられたままエレベーターに乗せられ、カゴはまたゆっくりと上昇を始める。
逃げていた時よりも遥かに短く感じる時間。
エレベーターはあっという間に8階に逆戻りしていた。
室内を引きずられ、先ほどまでスズさんと座っていたソファへ投げ飛ばされた。
「痛っ……」
「どうせ処女じゃないだろう。
どれ、俺も先に味見してみるか」
「……ひ」
声が、出ない。
身体が、硬直して動かない。
男は荒々しい手つきで、私のコートを脱がせた。
そのまま、ニヤつきながらスーツのジャケットを脱ぎ、カチャカチャとベルトを外し始める。
またぞわぞわと、嫌なものが背筋を上がってくる感覚。
この後、どうされるかなんて火を見るよりも明らかだ。
男の下半身には、凶暴なまでに怒張した昂りがそそり立っている。
他の衣類は身につけたまま、ショーツだけがずるりと下ろされた。