第73章 散華
──あれは……年末の、皆でストリートバスケをしていた時のこと。
「護身術……ですか?」
突然の赤司さんの発言に、さつきちゃんと私は、目を丸くした。
「桃井も神崎さんも、女性はいざという時のために、覚えておいて損はないよ」
「俺も妹には一通り教えてあるのだよ」
赤司さんを援護するような発言をしたのは、まさかの緑間さん。
「そうなんですか……」
「じゃあ、わたしたちにも教えて貰おうよ、ね、みわちゃん!」
「あ、うん……」
確かに、覚えておいて損はない。
今までだって、そういうのが使えていればもっと違う解決方法があったかもしれないことばかりだ。
「じゃあ早速やってみようか。まず、正面から来た相手には、こう掴んで体重をここにかけると」
「イデデデデデッ! 赤司っち! なんでオレにやるんスか!」
流れるような赤司さんの動きで、涼太が悶絶。
「ほら、体格差のある相手にもこの効果だ」
「でも、赤司くんみたいに力がないとできないんじゃないの?」
「そんな事ないよ。桃井も神崎さんも、やってみるといい」
「こう?」
「イッテエ! 桃っちまでなんで!?」
「凄い! ホントだ! ほら、みわちゃんもやってみて!」
「え、えっと……」
「みわならイタイのも大歓迎っスよ! さあ、さあさあ!」
「きーちゃんってホント……」
……偶然にも、さつきちゃんと私に、赤司さんと緑間さんが教えてくれた。
ドアの向こうには、下卑た笑みを顔に張り付かせている男の姿。
開いたドアから伸ばされたスーツの腕を、……勢い良く掴んで、体重をかけた。
「いてえっ!!」
まさか仕掛けられるとは思っていなかったであろう男は、顔を引きつらせ、たたらを踏んだ。
今だ。
ありったけの力を込めて下半身を蹴飛ばすと、バランスを崩した男は苦悶の表情で、尻餅をついた。
「スズさん、閉めて!」
すぐにスズさんが"閉"のボタンを押し、ゆっくりとドアが閉まっていく。
早く閉まって……!
"護身術は、あくまで一時的なものに過ぎない。護身術が必要になる場面では、最終的には相手を倒す事ではなく、逃げる事が大前提になる"
赤司さんの言葉を、思い出していた。
そう、これは急場をしのいだだけだ。