第73章 散華
スズさんに連れられて来たのは、横浜駅を少し離れた場所にある、9階建ての雑居ビル。
ゲームセンターやファストフード店、ドラッグストアなども立ち並ぶ、人通りの多い道だ。
現に今も、女子高生数人とすれ違ったし、外国人観光客の姿も多い。
でもこの辺りの建物は古いものばかりで、建物自体も看板や窓も薄汚れている。
スズさんには似合わない場所だなあ、そんな第一印象だった。
「……ここ?」
入り口にある看板でテナントを確認すると、9階は名前も知らないエステサロン、8階・6階・5階には一般企業と思われる会社名。
7階と4階には……ヘアサロンと書いてあるから、美容院があるみたい。
1階から3階までは、ゲームセンターになっている。そんなビル。
「スズさん、どこのお店に用があるの?」
ゲームセンター? で遊びたい……ようには見えないし、美容院?
まさか、エステサロン?
でも、こんなに悩むのって、どうして……
「……」
スズさんは、また俯いて立ち止まってしまった。
「……スズ、さん?」
やっぱりなんかおかしい。
こんなざわついた所よりも、家に呼んだ方が良かったのかもしれない。
「スズさん、大丈夫? 一旦、静かな所でお話聞こうか?」
少し間が空いて、スズさんは勢い良く顔を上げた。
「神崎せんぱいっ! 私、やっぱりダメです! 帰りましょう!」
「……え?」
その表情は、焦り、戸惑い、不安……いや、恐怖?
「わ、分かった、とにかく帰ろう」
スズさんのその様子に、ただならぬものを感じて、彼女の手を引いて踵を返した。
……瞬間、何かにぶつかった。
人……スーツ姿の、男性だ。
「すっ、すみません!」
焦りすぎて、後ろに人がいるのを確認しなかった。
深々と頭を下げて、避けるように歩き始めると……左腕に、掴まれたような感覚。
「スズちゃん、この子が前に言ってた子? 清純派って感じで、良さそうじゃねえか」
男性の口からスズさんの名前が出た事に驚いている内に、気付けば私たちはビルのエレベーターに押し込まれていた。