第73章 散華
翌日、涼太は青峰さんとアメリカへと発った。
前回は1週間ほどだったけれど、今回はもう少し長めの滞在。
今回も、アメリカ滞在中は連絡しないように、と伝えておいた。
涼太は渋っていたけれど、帰って来ればまたゆっくりお話出来るんだから。
これ以上にない機会、満喫して欲しいな。
滑走路から飛び立っていく飛行機を大きく手を振って見送り、ため息ひとつ。
……寂しくない、わけじゃない。
でも、涼太の未来だ。
邪魔だけはしないように。
ぐっと強く拳を握って、胸を占める感情にフタをした。
「みわちゃんごめん! わたし午後から練習に顔出す事になっているから、もう行くね。
今度、また一緒にランチしよう!」
青峰さんの見送りに来ていたさつきちゃんは桐皇の練習に出るらしく、乗り換え駅で別れた。
今回は、さつきちゃんのお父さんがお仕事で不在のため、電車移動。
毎回毎回甘えるわけには、いかないよね。
ちなみに、温泉で青峰さんとどうなったのか……また時間がある時にゆっくり、なんて言われてしまった。
2人の空気は、今までとあまり変わらないようだけど……?
気を取り直して、おばあちゃんに何かお土産でも……と思い、横浜駅で下車したところで、スマートフォンが着信を告げる。
スズさんかな? と思ったのだけれど、画面には意外にも赤司さんの名前。
「もしもし、神崎です。赤司さんですか?」
『こんにちは、神崎さん。今日横浜まで出て来ているんだけれど、お茶でもどうかな?』
まさかのお誘い。
でも、今日はスズさんと電話する約束になっているし……赤司さんと一緒に居る時に電話がかかってきてしまったら、どちらにも失礼だ。
私もちょうど横浜に居るから、いい機会なんだけれど……先約があると謝ってお断りした。残念。
電話を切って百貨店方面に歩き出すと、すぐにまた着信。
スズさんだ。
急いで、人気のない場所を探す。
駅ビルの脇にある、地上へと上がる階段、あそこなら殆ど人通りがない。
速足で移動し、通話をタップした。
「お待たせしちゃってごめんね。スズさん、大丈夫?」
『……』
スズさんは、暫く無言だった。
「スズさん、良ければ顔見て話さない? 今私、横浜駅にいるんだけど」
『……ありがとうございます、行きます』