第73章 散華
放課後、オレたちはバスケ部に顔を出す事にした。
早くも太陽は沈み始め、教室内がオレンジ色のスポットライトに照らされているようだ。
みわは、眩しそうに目を細めながらカバンに教科書やらを詰めている。
「みわ、もう行くんスか?」
「うん、行くよ。涼……はっ、黄瀬くんは?」
長い休みになると、みわは学校でもうっかり"涼太"と呼んでしまう。
朝もロッカーの前で呼んでいたのだが、気が付かなかったらしい。
オレは全然構わないし、むしろ学校でも名前呼びをして欲しかったんだけど……ああやって嫌がらせをされていた事を考えると、名前呼びじゃなくて良かったかもしれない。
もし、そんな親密そうにしていたら、もっと酷い事をされていたかも……。
ますますオレって、ノーテンキだったんだと反省する。
みわにはずっと苦労をかけていたらしい。
部室棟に入るところで、スズサンに会った。
オレは2人と別れて、男子部室に入る。
今まで使っていたロッカーの前で、なんだか感慨深くなる。
数あるロッカーのちょうど真ん中、上段。
元々は笠松センパイが使っていた場所だ。
センパイが引退した時に、オレもいつかセンパイみたいなキャプテンになると心に決めて、使わせて貰うようになったんだ。
……早川センパイも使いたかったらしく、散々文句を言われたのもなんか懐かしい。
前だけを見て走り続けた3年間、本当にあっという間だった。
みわが誕生日にくれた着慣れた練習着に袖を通して、みわと買いに行ったバッシュを持って、体育館へと向かう。
「っし!!」
気合いを入れて駆け出すと、制服姿だと寒くて不快なはずの冷気が、火照った肌に気持ち良かった。
オレはやっぱり、バスケが……海常が大好きだ。