第73章 散華
みわのロッカーに、カギが2つ付いてる。
ダイヤル式のと、南京錠。
今まで、気にした事がなかった。
もう卒業間近だというのに、その真新しいカギたち。
「私、先に教室に戻るね」
にこにこと笑顔で教室に入って行ったみわの背中を見送って、下駄箱まで走った。
頬を刺すような冷気を感じながら、走った。
途中、センセーが走るなとかなんとか言ってた気がするけど、気にせず走った。
すれ違う女のコ達の黄色い声も無視して、最高速度で下駄箱に到着すると、神崎と書かれている箱を開けた。
入っているはずのみわのローファーは、そこにはなかった。
そして、赤いインクのようなもので書かれた文字を擦って消したような痕跡。
文字は【死ね】とか、【インラン女】と書いてあったように見える。
……やっぱり。
みわは、変わらず嫌がらせをされていたんだ。
さっき、みわが持ってた巾着袋。
あれにローファーを入れて、カギ付きのロッカーに入れておいたのか。
今までは全部、部室のロッカーに入れて置いていたから無事だったんだ。
オレたちが引退して部室の荷物も片付けたから、仕方なく教室のロッカーにしまっているんだろう。
あの重かったカバンもそうだ。
きっと、教科書やらを置いて帰れば、イタズラをされていたに違いない。
それに、あの新しいカギ……
もしかしたら、カギも壊されたりしたんだろうか?
みわは、一度もそんな事、言わなかった。
1年の時に、女子に呼び出されてのイザコザがあったが、その後はすっかりおさまったものだと勘違いしていた。
今になって、気付くなんて。
みわ……
ごめん……。
オレと一緒にいる限り、油断してはいけなかったんだ。
今まで何度、こんな目に遭った事だろう。
引退してからとはいえ、1ヶ月以上も経っている。
「黄瀬! ホームルーム始めるぞ! 早く教室に入りなさい!」
遠くから聞こえる担任の声に、奥歯を噛み締めながら教室へ戻った。