• テキストサイズ

【黒バス:R18】解れゆくこころ

第73章 散華


「みわ」

名前を呼んで、それ以上何て言ったらいいのか分からなくて。

みわは、ぽてぽてと歩いて台所へと行ってしまう。
冷蔵庫を開ける気配。
トポトポと、液体を注ぐ音。

戻ってきたみわは、麦茶を2つ持って来てくれた。

コトン、とコタツテーブルにグラスを置く無機質な音。
そんな音でも、みわが立てた音なら愛しく感じてしまうから、もうかなりの重症だ。

……なんて言うかこういう気が利くトコっていうの?
自分のことだけ考えなきゃトコっていうか……兄弟がいるコっぽいんだけどな。

ま、そんなの偏見か、と思い直す。
思いやりがあるみわの性格、かな。

「……涼太」

「うん」

みわは、両手を祈るように握ったまま、俯いている。

「私……お母さんに会いたい」

「うん」

……良かった。
気が変わってしまうかと心配していた。
そう思ったのに……

「でも……」

みわの声は、震えている。

「今はまだ……会いに行くのは、やめておこうと思うの」

こくん、麦茶をひとくち。

「正直ね……こわい、っていうのもあるの。もし、もしね、お母さんが本当にああいう風に思っていたら……今の私じゃ、多分受け止められない。
もっと、私自身が胸を張って、お母さんの前に行けるようにしないと、いけないと思う」

「胸を……張って?」

「そう。私が、自信を持ってお母さんに会いに行けるようにならないと、って」

顔を上げたみわの目は真っ直ぐで……彼女の、意志の強さが宿っている。

「……そっか」

「ごめんなさい、折角、会いに行こうって言ってくれたのに」

しょぼん、と項垂れる姿は、まるで子犬のようだ。

「いいんスよ。みわがそう決めたなら、それが一番いい」

柔らかい髪を撫でながらそう言うと、ホッとしたように表情を緩めた。

お祖母さんに相談する前で良かった。
みわの気持ちが固まるまで、待とう。





/ 2455ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp