第73章 散華
「そんなコト言わないでよ。死んだ方がいいなんて、絶対言わないで。お母さんがそんなコト、思うわけないじゃないスか」
実家での家族の会話。
上の姉ちゃんが言ってた言葉。
虐待する親も、子どもを捨てる親もいるって。
それは分かる。
テレビのニュースだって見てる。
でもそれは、山ほどいる"家族"の内のほんの一部なんじゃないスか?
みわは絶対に愛されて育った。
そうじゃなかったら、こんなに真っ直ぐ純粋になるもんか。
お母さんに会えば全て解決する。
どういうつもりで花を贈ったかだって。
"ごめんね、そんな意味があるって知らなかったの"って言ってくれれば、それでいいじゃないか。
そう、思ってた。
いや、今だって思ってる。
でも、目の前のみわの表情……。
色を失くしてしまった、絶望という言葉が張り付いてしまっている、その顔。
「ねえみわ、考えすぎだって」
布団から身体を起こすことなく、みわはオレに背を向けてしまった。
こんなの、初めてだ。
みわ……
「みわ……お母さんに、会いたくなくなった?」
シン、と静まり返る室内。
ゴロゴロと遠方で騒ぎ立てるカミナリが、無駄に胸をざわつかせる。
「分からなく……なっちゃった」
聞こえた声は、布団越しのせいか、とても弱々しく聞こえた。
「ごめんなさい……涼太、ひとりに、してくれる?」
結局それ以上、みわに聞くことは出来なかった。
今、彼女の側に居てあげるべきなのか、少し距離を置いてあげるべきなのかが分からない。
オレがどんな言葉をかけたって、みわの苦しみは分かってあげられないのかもしれない。
オレは、家族に関して悩んだ事がないから。
悩んだって言っても、建て替える前の小さな家で、姉ちゃんと部屋を分けて欲しいとか、その程度だ。
やっぱり、お母さんに会おうなんて、軽率だったか?
……今は、みわが気持ちを整理出来るか、見守ろう。
もし出来ないなら、寄り添おう。
みわが、納得できる答えを出すまで。
一際大きな雷鳴が響き渡り、続いて落雷の轟音。
それはまるで何かを暗示しているかのように、不安を煽るものだった。