第73章 散華
チカチカと窓の外が明るくなって、轟く雷鳴が頭上に響く。
それに続いて、雨が落ちる音。
今日はバタバタして天気予報を見なかった。
涼太、傘持っているかな。
そこまで考えて、布団の中でモゾモゾと身体を動かす。
久しぶりに、夢も見ずに熟睡していたみたい。
軽くなった頭と身体が、体調がだいぶ回復した事を知らせてくれている。
良かった、これでお母さんに会いに行ける。
……お母さん……。
どうしよう、何か手土産でも持って行った方がいいんだろうか。
プレゼント? お菓子とか?
でも、久々に会うのにそれはないよね……。
そこまで考えて、ふと思いついた。
お母さんがいつも贈ってくれた、あのお花。
あれが、お母さんと私を繋ぐものだ。
そうだ、あのお花を買って行こう。
思い立ったが吉日、取り扱っていそうな花屋を探すべく、涼太が枕元に置いてくれていたスマートフォンを手に取り、ブラウザを開き、検索窓で花の名前をタップした。
「スノードロップ、と」
表示されたのは、まるでイヤリングのように、下向きに咲く白い花。
可愛らしくて、好きな花。
その姿は、脳裏にもしっかりと記憶されている。
そう言えば以前、涼太と花言葉で盛り上がったな、なんて思い出して。
なんとはなしに、スノードロップの花言葉を検索してみた。
「花言葉は……」
"希望、慰め、逆境のなかの希望、恋の最初のまなざし"
なんだか素敵だ。
逆境の中の希望……私にとって、それは涼太のこと。
涼太は、揺らぐことのない、私の希望。
恋の最初のまなざし……彼に恋したのは、いつが始まりだったんだろう。
とりあえず、お母さんは私に、諦めなければ希望があると、そう伝えたかったのだろうか。
嬉しいな。
母の想いがそこにあるような気がして。
ウキウキした心持ちで、画面をスクロールしていく。
ふと、ページ下部の記述が目に入った。
"スノードロップは死を象徴する花とされています。人への贈り物にすると【死】を【希望】することとなり、【あなたの死を望みます】という意味になるので、注意が必要です。"