第73章 散華
空気が冷たいせいか、澄んだように感じる空気の中、部屋へと向かう。
黄瀬家とは違い、年季の入った階段がギシギシと音を立てた。
涼太は手早く布団を敷いてくれ、パジャマをタンスから出して着替えさせてくれた。
「寒くない?」
甘く、優しい声。
髪を撫でる手は、どこまでも優しくて。
「大丈夫……」
背筋を走る悪寒に気付かないふりをして、そっと目を閉じる。
「早く治さないと、お母さんに会えないっスよ」
お母さんに、会う……。
その言葉がどんどん現実味を帯びてきた。
……そもそも、どうしてお母さんと別々に暮らしていたんだろう?
ヤツとの事があったから?
それ以前から?
……分からない事をいくら考えても、無駄だよね。
「緊張、してる?」
気遣う声が、耳にふわりと触れるようで心地よい。
「緊張……してる、のかも。あまり、想像できなくて。どんなこと話せばいいのかとか……」
「難しいコト考えなくて、いいんじゃないスか。思ってること、素直に言えば」
思ってること……。
私が、お母さんに思ってること……。
「うまく、伝えられるかな」
「ダイジョーブ、オレも一緒に居るからさ」
あったかい声が……オレは味方だよって、言ってくれているみたい。
このひとから出る全ての声が、音が、私の力になるんだ。
「おやすみ、みわ」
「おやすみなさい……」
さらり、さらりと髪を撫でてくれる感触を楽しんでいるうちに……
あっという間に眠りへと吸い込まれていった。