第73章 散華
「じゃあわたし車出すよ。送ってくわ」
結局、昼寝をしてすっかり元気になった下の姉ちゃんに送ってもらう事になった。
父親が送りたがっていたが、飲酒していたため諦めさせて。
「みわちゃん、また来てね。絶対来てね」
みわの両手をガッシリ握り、涙目で懇願する姿は……もうなんつーか、なんとも言いがたい気持ちだ。
そして、みわはいつの間にかウチの家族全員と連絡先交換してるし……。
「涼太、ちょっと1本電話かけてから行くから、先に車乗って暖房つけといて」
「ん」
チシャ猫のシッポのキーホルダーをつけた車のキーを受け取る。
太陽まで正月休みらしい。
厚い雲に覆われた空は、気持ちまでどんよりとさせてくれる。
早々と車に乗り込み、電気系統だけ通して暖房のスイッチを入れた。
「さむ」
冷え切った車内の空気に、思わず身を震わせる。
「寒いね」
みわは両腕で自らを抱きしめるようにして身体を温めているのが痛々しい。
「それ、寒気じゃないよね? また熱上がったんじゃ……」
「大丈夫、お姉さんたちがストール貸して下さったから」
みわは、姉ちゃんたちのストールでぐるぐる巻きになっている。
オレに負けず劣らずの過保護っぷりだ。
「も、ホントにあのヒトたちはさ……はぁ」
「今までは涼太のお母さん、顔が涼太そっくりだなって思ってたけど……お父さんにも似てるんだね、びっくりしちゃった」
くすくすと笑っている姿がいつも通りで、安心する。
「あー、最近はよく、似てるって言われるっスわー……」
「楽しかった。家族って、いいね」
「そう? 騒がしいだけっスよ」
「うまく言えないんだけど……すごく、理想的」
やはり、その表情はどこか寂しげで。
オレがやっていることは、みわを傷つけるだけの残酷なものだったのかもしれない。
黄瀬家は皆、みわを本当の家族みたいに思ってはいるけれど、みわはどうだろうか。
オレの家族を、自分の家族と思って欲しいとの考えでこうして一緒に過ごして貰ってたけど、オレのせいで自分の家族が恋しくなってしまったのではないか。
ごめん、みわ……でもそれも、みわのお母さんと会う事で、全部解決させるから。