第4章 黒子くん
"保健師本日12時まで不在。
利用者は利用名簿に記名のうえ、入室すること。"
「先生、いないんだ……でも、ベッド使うのは大丈夫そうだね」
「う……ん」
あれから、黄瀬くんの息が荒くなってきた。
無理して張っていた糸がぷっつり切れたみたいに。
ベッドに横たわってもらう。
脱がせたブレザーは椅子にかけ、その足で冷蔵庫を開けると、箱に入った冷却シートを発見。
棚の上には総合感冒薬があった。
「黄瀬くん、薬……」
背後から、寝息が聞こえてきた。
もう眠りに入ってしまったみたいだ。
起こしてしまうのもかわいそうだけど、どうしよう……
タオルで汗を軽く拭いて、冷却シートをおでこに貼った。
"黒子っち!"
黒子っちが、前を歩いている。
呼びかけると、振り向いた。
"黒子っち、どうしてこんなところに?"
黒子っちは無表情のまま、また歩き出してしまう。
"黒子っち! 黒子っちってば!
また、バスケしようよ! オレにパス出してよ!
ねえ……!"
目を開けると、見慣れない白い天井。
オレ、どうしたんだっけ……
身体が熱い。
風邪、引いたみたいっスわ……
おでこに、ひんやりした柔らかい手が触れる。
「黄瀬くん、うなされてたけど大丈夫?」
……神崎っちだ。
「あ、オレ……寝てたんスね」
そうだ、彼女がここに連れてきてくれたんだった。
なんか、朝からどうにも怠くて。
「神崎っち……じゅぎょうは」
「あ、もう保健師さんが戻ってくるから、そうしたら戻るね。1人じゃなければ安心だし」
「あー……ありがと……」
先日、あんなに震えていた彼女だ。
男性が苦手というレベルではないのだろう。
にもかかわらず、オレを支えてきてくれた。
「ありがとう……」
「ううん、私は何もしてないから」
「黒子っちの夢、見たんスわ……」
「くろこっち?」
「中学が一緒だったんスよ……今は誠凛高校に行ってて……」
「彼女さん?」
「ははっ、オトコっスよ。また……一緒にバスケしてーなー……」
気づくとまた、夢の中に吸い込まれていた。
身体がいうことをきかなくて、目が覚めて、結局オレは早退することにした。
神崎っちには、明日お礼しなきゃな……