第4章 黒子くん
——ある朝、それはいつもと変わらない朝。
……でも、朝練が終わって教室に戻ってきた黄瀬くんに、いつもの元気はなかった。
相変わらず黄瀬くんの周りに取り巻く女の子たちは気づいていないようだけど、なんだか明らかにおかしい。
顔色が良くないし、足元もおぼつかない様子。
体調が悪いのかな……それでも、周りの女の子たちは変わらず喋る・喋る・喋る。
黄瀬くんも笑顔で対応してはいるけど……思い切って割って入ってみた。
「黄瀬くん……担任の先生が呼んでたよ。職員室に来てって」
「まじっスか。神崎っち、ありがとね。じゃあ、オレちょっと行ってくるっスわ」
女の子達をかき分け、職員室に向かう黄瀬くんを見送ってから、周りの子に気づかれないように、急いで後を追いかけた。
「黄瀬くん!」
「神崎っち、どーしたんスか?」
「ごめんね、本当は先生に呼ばれたりしてないの」
「ん?」
「黄瀬くん、体調すごく悪そうだったからつい声かけちゃって……」
「え」
黄瀬くんの驚いた顔を見て、あ、失敗したって思った。
私のやってることは完全に余計なお世話だ。
「もし体調悪いようなら、早退した方がいいんじゃないかなって思ったんだけど、余計なお節介だったよね。ごめんね」
「いや……確かに今日はちょっとダルいなって思ってたんスけど……よく気づいたっスね」
「え、だってどう見ても……」
遠目で見てた私ですら、すぐに気付いたのに。
「ちょっと寝不足だからっスかね。保健室行って寝てくるっスわ」
ふらついてるけど、本当に寝不足?
と、心配してるのも束の間、黄瀬くんはよろけて壁に激突した。
「き、黄瀬くん、大丈夫!?」
思わず身体を支えると、制服の上からでも伝わる熱。
「ちょ、ちょっと……熱が、高くない?」
「んー……そっスか……?」
おでこに軽く触れると、明らかに高熱だ。
「あっつ……! ちょ、ちょっと、病院行かないと!」
「いやー……そんなでもないっスよ。それより、神崎っち、おとこ、だいじょうぶスか……」
「そんなこと言ってる場合じゃないよ! つかまって!」
「はは……かっけー……」
力なく笑う彼を支えながら、保健室へ向かった。