第73章 散華
「あら、みわちゃん」
「具合はどうだい、みわちゃん」
リビングに入るなり、ソファに並んでテレビを見ていた両親がみわに声をかける。
まるでオレは空気のようなスルーっぷりだ。
おまけに父親はいつの間にか"みわちゃん"になってるし。
「あの、もう大丈夫です。申し訳ありません、ご迷惑をお掛けしてしまって」
またペコペコと謝るみわの頬は、まだ少し赤い。
熱は下がり切っていないというのに、みわは、もう楽になったから下に下りると言ってきかないので、渋々連れてきた。
思ったよりも静かな室内。
それもそのはず、いつもウルサイあの2人……
「あれ、姉ちゃんたちは?」
「今、お昼寝してるわよ。みわちゃんも寝てるからって」
どうやら現在、黄瀬家はみわを中心に回っているらしい。
「みわちゃん、アイスでも食べる?」
「あっ、あの、お気遣いなく!」
「わたしが食べたいの。付き合ってくれるかしら」
「……あ、はい……すみません……」
母親がソファから立ち上がりキッチンに向かうと、父親もそれにくっついて、ダイニングへ移動した。
「涼太、来月またアメリカに行くんだって?」
「ああ、うん」
「みわちゃんも連れて行ったらいいじゃないか」
サラッとおかしな事を言うのがうちの父親だ。
対策は……相手にしないのが一番。
「結婚式は国内でやるのか? 時期が決まったら、早く教えてくれよ」
……。
みわは、母親と何かを話していて聞いていない。
ちょうど良かった。
「まだそんな段階じゃねぇから」
父親は腕組みをして、何故か得意げだ。
大抵こういう時は、ロクでもない事ばかり言う。
「そうなのか? モタモタしていると他の男に取られてしまうぞ。父さんだってな、涼太くらいのトシには……」
「2人が出会ったのは職場でだろ。オレくらいのトシには遊んでたんじゃねぇの」
「はっはっはっ、そういう事もあったかもしれないな」
……このヒトの血が流れてんのか、オレに。