第73章 散華
「ったく……」
何回目のこのセリフだろうか。
姉ちゃんや父親に振り回されたみわは、更に熱が上がってしまったようだ。
やっぱり、タクシーでもなんでも使って帰せば良かったか……。
判断ミスだった。
ウチのヒトたちを甘く見てた。
ごめん、みわ。
「ごめんね……みわちゃんが親身にわたしの話聞いてくれるから、つい……」
「みわは優しいんだから、甘えんなよ」
下の姉ちゃんは、しょんぼりしてる。
頼むから、途中で気付いて欲しかった。
「ごめんごめん」
続けて、全く反省の色が見えないのは父親だ。
ぺろりと舌を出して謝る姿がどこか自分に重なって、イラッとくる。
絶対ロクに反省してないな、これ。
「も、いいから2人ともさっさと下行けってば」
「あら、お父さんお帰りなさい」
ぐいぐいと2人の背中を押しやっていると、階段を上がって来たのは母親だった。
ああ、話がどんどんややこしくなる。
「涼太、先にお昼食べちゃいなさい。みわちゃんは私が見ているから」
「いや、いいよ」
きっとまた、オレがいないと悪夢にうなされてしまうだろう。
オレが、ついててあげないと。
「いいから、先に食べてきちゃいなさい。そうしたら後で代わって」
「いや、そーじゃなくて……」
そうじゃなくて。
なんて説明すればいいんだ?
みわのコト、軽々しく話したくはない。
「とにかく、オレがついてるから……」
「涼太」
オレを睨みつけんばかりのその表情に、思わず息を呑む。
母親の頑固モードのスイッチが入ってしまった。
経験上、こうなったらそうやすやすと自分の意見は曲げない。
「……じゃあすぐ戻るから」
言い合うよりも、ささっと食事を済ませたほうが早い。
そう判断して、階段を全速力で駆け下りた。