第73章 散華
「ったく……」
みわの事が大好きすぎる姉ちゃんに追い出された。
それだけだったら絶対に折れるつもりはなかったけど、みわまで姉ちゃんと話があるとか言い出すから、仕方なく。
みわは自分の事も顧みずにヒトのために頑張るから、心配なんスよ、特にこういう時は。
頑固な一面もある彼女、ハイハイとは聞いてくんないだろうけど……。
「あ、涼太こっちこっち」
諦めて冷蔵庫を物色していると、母親に手招きされて。
誘われて足を踏み入れたリビングはまた、フリマ会場と化していた。
「涼太これ、財布使う?」
上の姉ちゃんの手にあるのは、某有名ブランドの黒い財布だ。
しっかりした造りの箱に入ってる。
多分、正規品なんだろう。姉ちゃん、そーゆートコしっかりしてるから。
現地で安かったのだろうか。
「使う」
受け取って、ふと気付く。
あれ、今回の旅行って国内じゃなかったか?
「はい、遅くなったけどクリスマスプレゼント。財布、もうボロいでしょ」
「あ……アリガト」
「バスケの優勝祝いも兼ねて、ね。
ボーナス削ったんだから大事に使いなさいよ」
「ん」
姉ちゃん達は2人とも、なんだかんだとプレゼントをくれる。
働くようになったら、オレも返せるようになんないとな。
「最近アンタ、無駄遣いしないから。前は服だのアクセだの、ちょこちょこ買ってたのに」
「……金、貯めてるから」
姉ちゃんと母親は口元を緩めながらこちらを見ている。
くそ、なんかイヤだな。
「言っとくけど、ブランド物なんてこれっきりだからね」
「可愛い女の子をアクセサリー代わりに連れて歩いていた涼太がねえ……」
ねえ、うんうんと2人、目を合わせて頷いている。
どうやら過去の愚かな行いは全てお見通しのようだった。
なんとも居心地が悪く、目線をあちらこちらに泳がせていると、2階からガタガタという重低音が響いてきた。
「みわ!?」
反射的に、足が2階に向かっていた。