第19章 夏合宿 ー2日目ー
「おい黄瀬、その前にちょっといいか」
「ハイ」
笠松センパイに呼ばれて部屋の外に出た。
「俺も後で神崎にはフォロー入れるが、アイツもまだ1年で、今回が初めての合宿だ。
アイツなりに3年のマネにあれこれ聞いて頑張ってくれてるんだが、今回の事、そんなに気に病まないように言っとけよ」
「そっスね……なんか、なんでもやってくれてるから、つい甘えちゃってたっスわ」
そうだ。彼女だって初めての合宿だ。
オレは帝光時代から厳しい練習ばかりだったからついていけてるけど、他の1年生部員はついていくので必死。
この暑さだ。
オレたちと同じように1日動き回っている彼女だって、相当な負担のはず。
責任を感じる必要はないんだ。
皆で頑張ってるんだから。
部屋に戻ると、みわっちが起き上がろうとしていた。
「ダメだって、みわっち! 安静にしてなきゃでしょ!」
「……もう治ったから……まだまだやる事、いっぱいあるし……ごめんね、黄瀬くんもご飯食べてきて」
「何言ってるんスか! もーみわっち、ガンコなのも困りモンっスよ!」
「ふふ、黄瀬くんに言われちゃうかあ……」
力なく微笑んだ顔が、凄く可愛かった。
「こないだ言ったっスよね、無理しないでって」
「そうだね……力が無いくせに、なんとかしようとするからいけないのかな……」
そうじゃないんだって。
みわっちの頭を撫でる。
「違うっスよ……みわっちが大切だから。
だからみわっちも、自分を大切にして欲しいだけっスよ」
髪が汗でしっとりしている。
体温自体は下がり始めてるようだ。
「黄瀬くん……」
「うん?」
「……ごめんなさい」
「うん、だからいいって、ね?」
「違うの……ごめんなさい……!」
「みわっち」
彼女の目から涙が溢れる。
「ひっく……ご、ごめんなさい……っ……!」
「みわっち、興奮しないで。大丈夫。誰も責めたりなんて
しないっスから」
泣かないで。
いつも冷静なみわっちが取り乱すと、なんだかこちらまで動揺してしまう。
頭を撫でながら、目元を手で覆った。
横になるように促してからも彼女はしばらく泣きじゃくっていたが、少しすると、泣き声は寝息に変わっていった。