第73章 散華
結局あの後、お姉さんに強引に押されまくり、涼太は部屋から追い出されてしまった。
「はあ〜、やっとみわちゃんとふたりきりになれた! はい、寝て寝て!」
「う、す、すみません……」
お姉さんの前でグッタリと寝込むわけにはいかないと思いつつも、熱を持った身体は言うことを聞いてくれず、諦めてベッドに全てを預けた。
体重を受け止めてくれるスプリングは、どこか懐かしくて……。
涼太と一緒にこのベッドの上で過ごした日々が、何度も何度も繰り返し思い出される。
涼太と……彼と居て、初めて"記憶"が、"想い出"が、優しいものになった。
私を苦しめるだけだった……過去というものの一片に、それは鮮やかにたおやかに、色付いている。
「みわちゃん、気分悪くない?」
覗き込み、私を心配そうに見守って下さっているのは、大好きなお姉さん。
「ありがとうございます、大丈夫です。お姉さん、髪……素敵ですね」
そう、ふわふわのロングだったお姉さんの髪は、バッサリと切られていた。
ショートカットよりは少し長い……ボブ、というのだろうか。
「ホント〜? ありがと!
失恋して髪切るなんて、我ながら古いっていうね、あはは」
失恋……
その明るい言葉と表情とは裏腹なその単語に、自分の無神経な発言を恥じた。
「っ、申し訳ありません!」
「いいのいいの、謝る事なんて全然ないんだから」
涼太に似た瞳はどこか寂しげな色を孕んでいる。
「ホントにさ……この世の中で、たった1人の相手を見つけ出す事がどれだけ難しい事なのかって、痛感するわ」
「……」
「だって、世界には男と女しかいないのよ?
その中から1人って……どんだけの確率かって話よね」
お姉さんの……言う通りだ。
全ての出会いが、どれほど奇跡的なものなのか。
「私は彼しかいないと思っていたけど、彼には私じゃ無かったんだよね、残念ながら」
彼には、私じゃなかった……。
耳が痛くなる言葉。
私は涼太がいなくちゃ、ダメだけど……
涼太は、私がいなくてもきっと大丈夫。
今まで、幾度となく考え、納得してきた言葉だ。