第73章 散華
最悪だよ、私……。
勝手に泊まっていったのに、嫌な夢見て吐いて、熱出して寝込んで……。
なんでこんな私に優しくしてくれるんだろう。
涙が出てくるのは、なんでだろう……。
薄味で調えられた優しい味の雑炊を口にするたびに、説明出来ない感情が溢れ出てきて、止まらない。
そんな私を、涼太は優しく抱きしめてくれて……こころの中には、嬉しい気持ちと情けない気持ちと申し訳ない気持ちが同居している。
頭が、ガンガンしてきた……。
「みわ、みわは悪くないからね」
降ってくるのは、そんな優しい、声。
「みわは甘えていいんスよ。オレにも、オレの家族にもさ」
甘える……?
甘えてる、よ……?
これ以上ないくらい。
……
そもそも……甘えるって、なんだろう。
回らない頭で考えれば考えるほど、思考は迷宮へと迷い込んでしまいそうだ。
頭を抱えそうになっていると、沈黙を破ってコココンコンと、軽快にドアをノックする音。
「涼太〜! 入るよ!」
言うや否や、ガチャリとドアが開く。
下のお姉さんだ。
「ちょ、姉ちゃん、なに? 勝手にあけんなよ」
パッと涼太が離れる。
「なにじゃないよ! みわちゃんが寝込んでるのに、知らん顔はないでしょ!
そっちこそ何よ、やましいことしてんじゃないでしょうね?」
「そんなんじゃねぇよ」
涼太は、お姉さんには滅法弱いみたい。
小さい頃から散々イジられてきたんだって、口を尖らせて言う涼太は凄く可愛かった。
「いつもみわちゃんに癒して貰ってるんだから、たまには私が癒さないとね」
「姉ちゃんが居たら悪化するって」
「あん? なんだって?」
「いや、なんでもねぇけど……」
そんなやりとりを見て、思わず吹き出してしまった。
「……やっと笑った」
切れ長の瞳を優しく緩ませて、目の前の大好きな2人は、そう言った。