第73章 散華
青白い顔をしたみわを置いて行くのは気が引けたが、恐らく暴走するであろう姉ちゃんたちを放っておくわけにもいかない。
階下まで下りていくと、大荷物の女3人があれやこれやと騒いでいる。
「あ、涼太これ持って!」
「ちょっと悪いけど、これもいい?」
次から次へと荷物を渡され、あっという間にオレの両腕は荷物掛けへと変貌を遂げた。
「みわちゃん、来てくれてるんだね」
下の姉ちゃんが、みわの靴を発見して嬉しそうに漏らす。
昨日の電話でも、みわに会いたい会いたいの連呼だったからな……。
「みわちゃんは?」
「部屋」
特に下の姉ちゃんからは、みわを大事にしろと普段から耳にタコが出来るほど言われているので、昨日はあんな抱き方をしてしまい、どうにも顔を合わせ辛い。
「会ってこようっと」
「いやでも、みわはちょっと今」
やっぱり今日は帰らせよう。
家族が居たら気も遣うだろうし、何よりあの状態は心配すぎる。
余計なストレスをかけたくない。
2階に上がろうとする姉ちゃんを制止しようと振り向くと、キシリと足元を鳴らして階段を下りてくるみわの姿。
「おはようございます、お邪魔しております」
「みわ」
「みわちゃん、久しぶり! 元気してた!?」
下の姉ちゃんはみわの両手を掴み、ぴょこぴょこと嬉しそうに跳ねている。
その姿を見て、上の姉ちゃんが怪訝そうな顔。
「みわさん……どこか具合が悪い?」
さすが医療系(多分)勤務の姉ちゃん、目ざとい。
青白かったみわの頬が、今度は紅潮しているように見えるのは、気のせいではないだろう。
熱でも出てしまったか。
「うん、みわちょっと体調悪いからさ、今日は」
「みわちゃん風邪!? 大丈夫!? 横になった方がいいよ!」
オレの話なんてほぼ聞いてない下の姉ちゃんが、今度はみわの背を押して階段を上り始めた。