第73章 散華
「なんか明るい話しよーよ、みわ」
涼太に頬を触られて、ピクリと反応してしまう。
何かを期待しているかのようなその反応を見て、彼は優しく微笑む。
あったかくなるような、いつもの笑顔、だ。
「え、あ……えと、皆の、進路……意外、だったね」
咄嗟に思いついた話題を口にする。
キセキの皆の、これから。
「ああ、そうっスね。
卒業後は皆こっちに戻って来るから、もしかしたらまた集まったりすることも増えるかもしんないっスね」
いいな。
あんな風に皆で集まって、楽しい時間を共有できたら。
一度道を違えた彼らが、こうしてまた集まって……。
けれど、これはキセキじゃない。
黒子くんと火神さんが導いた結果だし、私が涼太と出逢えたようなラッキーと一緒にしてしまってはいけないと思う。
バスケが繋いだ縁。
これからも、ずっと繋がっていくんだ。
「……いいな、皆の、絆」
ぽつりと口にして、しまったと思う。
こんなの、僻みみたいなものだ。
明るい話をって、思ったのに!
……でも、皆が羨ましい。
ああやって、切っても切れない縁で結ばれている皆が。
羨ましがったって、どうなるわけじゃない。
私が、皆の過去に入れるわけでもない。
でも、やっぱり、寂しい……。
「こういうのは、過ごした時間の長さじゃないっスよ、みわ」
涼太の声が、一段と優しくなった。
「……ごめん、なさい」
最悪だ。
涼太に、気を遣わせて。
"そんな事ないよ""みわだって仲間だろ"無意識のうちにそう言って欲しくて、言ったようなものだ。
せっかくふたりきりの時間、なんでこんな事しか言えないんだろう。
「また謝った」
「う」
……これもそう。
謝れば、許して貰えると思ってるんだろうか。
"ううん、大丈夫だよ"って相手が気を遣って返してくれるように、誘導してしまっているんだろうか。
涼太のことを好きになればなるほど、自分の嫌なところが見えてくる。
「私、ずるい」
「ん? 何がっスか?」
「そんなことないよって言って欲しくて、謝ってるんだよ、無意識のうちに……」
「みわは考えスギ」
ぽんぽんと、大きな手がなだめるように、撫でてくれる。
その優しい手に許された気がして、ずるい私はまたちょっとだけホッとした。