第73章 散華
「私がもし、そうなったら……」
「みわが? はは、なんか自分で言っときながらアレだけど、想像もしたくないっスわ」
私にもし、今後、何かあって……
それで、涼太に負担をかけなければ生活が出来なくなってしまったら……。
「別れ、て」
掠れている声が、更にしわがれていく。
例え話でも、出したくない単語だけど……でも、いつかはちゃんと言っておかなきゃ、って思っていたから。
琥珀色の宝石のような瞳が、ころりんと転がり落ちてしまいそうなほど、見開いている。
「何言ってんスか、オレだってみわの事」
「別れるって約束して……欲しいの」
もし、そうなったら、私を捨てて。
涼太は、光の当たる舞台で、自由に、誰よりも輝いて欲しい。
後ろを振り向かないで。
強い光が生み出す、濃い影なんて見なくていい。
影の存在なんて、忘れて欲しい。
見て欲しい、前だけを。
「そんなの、約束するわけねぇスよ。
ナニ? またなんか心配になっちゃったんスか?」
「心配とか、そういうんじゃ……ないの」
ワガママかもしれない。
「みわはガンコなトコあるから折れないと思うっスけど、オレも譲れないからね」
お願い、涼太。
こんな口約束、しても仕方ないのかもしれないけど……
ちゃんと、私の意思は伝えておきたい。
私が、涼太の足を引っ張るような事があってはならない、絶対に。
ずっと、考えてきたことだから。
「涼太……」
「ヤメヤメ! こんなあるかも分かんない事を聞いたオレが悪かったっス!」
あ……
不快に、させてしまった……?
「ごめ、」
「先の事なんて、誰にも分かんねぇスよ、みわ。
その時その時で、精一杯色んなモン選んでさ、生きてけばいい、でしょ?」
「……うん……」
……でも……私が涼太の枷になってしまうかもしれない未来が、怖い……。