第73章 散華
「……ねえみわ。オレがさ、事故かなんかで顔が潰れて、足がなくなったら、どうする?」
……咄嗟に口から滑り落ちた、なんて子どもじみた質問。
オレの価値がなんにもなくなったら、みわはどうする?
今のこの雰囲気なら、"それでも変わらずあなたが好き"としか返せない、誘導尋問だ。
どこまでも、ズルいヤツ。
「え……」
みわは少し考え込んでしまった。
オレを喜ばせる最善の答えを探してくれているんだろう。
「うーん……」
此の期に及んで、ごめん。
こんなバカみたいなイタズラみたいな質問でも、みわの気持ちが聞きたいんスよ。
少しの沈黙の後、みわは重くなっていた口をようやく開いた。
随分と悩ませてしまったらしい。
「涼太……賃貸物件で、バリアフリーの所って、どの位あるのかな……」
……へ。
「ち、賃貸? バリアフリー?」
オレが質問をしているのにもかかわらず質問で返され、更に全く想像もしていなかった単語が並べられて、頭の上には?マークだらけだ。
声が掠れてたから、聞き間違えた?
いや、間違えてないよな?
「だって、そうなったら車いすでの生活だけど、おばあちゃんの家はあの通りの古さだし、建て替える予定はないみたいだから……すぐに新しくお家を建てるって言っても無理だし、賃貸かなあって」
……いや、そうじゃなくて?
「あの、みわ、そうじゃなくてさ」
「うん、そうじゃなくて、もしおばあちゃんの家を……ってなったとしても、リフォームだって相当お金かかるもんね……ちょっと考えてみるね」
「待ってごめん、オレが悪かったっス」
「どうしたの?」
みわのマジメすぎる性格がこの流れを生み出したのか。
なんでそんな壮大な話になってんだ。
「いや、オレ的には、別れるかどうかって質問のつもりだったんスけど……」
「ええっ! 意味が分からないよ!」
天然系マジメちゃんのみわ、こういうトコロも大好きなんだった。
「別れるわけないじゃない! どうやって支えるのがいいのか、考えなきゃ」
こんなに真剣に考えてくれるなんて。
ニヤつく口元に気付かれぬよう、手で隠していると、みわが神妙な顔つきで続けた。
「でもね、涼太……」