第73章 散華
あれからどの位の時間が経っただろうか。
下半身から全身にくまなく広がる倦怠感に負け、保っていられるギリギリのところで意識を揺らしていると、腕の中のみわがモゾモゾと動いた。
「……あ、さ……?」
「みわ」
この子の名前を呼ぶ時は、自分でも驚くくらいの優しい声が出る。
こんな声色、自分の中のどこにあったのかと思うほどに。
「涼太……ごめんな、さい……ねむくて」
「いいんスよ。身体、キツいでしょ。まだ朝になってないから、もう少し寝てな」
ほんの少しの間があって、みわはぷるぷると頭を振った。
「だいじょ、ぶ……おきる」
フラフラする身体で無理に起きようとする彼女を、両手で制した。
「ホラ、無理しちゃダメだって」
「だって、わた……し」
落ちそうになる意識を必死に手繰り寄せようと、みわはまた頭を振った。
「いいって。無理させたのはオレなんスから。起き上がれないっしょ、ごめん」
「ううん、だい、じょぶ」
そんな不毛なやり取りを数分して、みわは脱力した肉体を再び布団の波に預けた。
「……ごめ、な、さい」
言い合いをしている内に、意識は覚醒したようだ。
ただ、声は酷く嗄れてしまっている。
再びその肢体を抱き込み、オレは、行為の最中から押し寄せていた何度目かの幸福感に軽く背筋を震わせた。
「謝んないでってばみわ……ね」
しかしまた、セットになって襲い来る後悔。
「みわ……オレこそ……ごめん」
「ん……?」
こんな大事な身体に。
「ナカに……出して、さ」
後悔、している。
のに、やっぱりみわが全てを委ねてくれたのが嬉しくて。
複雑な気持ちは、顔にも出てしまっていたらしい。
みわが、優しい形の眉を下げて、困ったような表情になった。
「違うよ、してって言ったのは私……だから、涼太は悪くないの」
違う。
いや、2人でシていることなんだから、違わないかもしんないけど……。
みわは、オレに気を遣って言ったはずだ。
温泉で中断してしまった、あの行為の続きをと。
その、みわの優しさに甘えたのはオレだ。