第73章 散華
「……っ、っく、っ」
しゃくりあげて泣いている、小さくて柔らかい唇を、労わるように、慰めるように吸い上げる。
その不安な気持ち、ひとりで抱えないで。
オレに分けて。
「りょうた」
瞳に涙をいっぱい溜めて、震える声でオレを呼ぶみわを、壊してしまいたい。
壊して、恐怖も、不安もない場所に閉じ込めて、オレだけのみわに。
守ってあげたいと思う気持ちに嘘は全くないのに、やはり脳裏をよぎってしまう正反対の独占欲に苦笑しながら、涙の筋がついた頬に唇を滑らせた。
「ご、ごめん、なさい。こんなことまで話すつもりはなかったのに。
変、だよね。りょ、たの事、ずっと好き、って言っておいて、忘れない、か、不安、って」
「変じゃないっスよ」
原因も分からない記憶障害を、怖くない人間がいたら見てみたい。
「ごめ、なさ、涼太の不安だけ取り除いてあげたくて、それだけだっ、た、の、に……っ」
言葉の最後は涙に濡れて、ハッキリとは聞こえなかった。
こんな時までオレに気遣う健気な彼女を、再び自分の胸に抱き込む。
「謝んないで……大丈夫っスよ、みわ」
「っ、りょ、た?」
「何があっても、オレはみわのそばにいるから」
温泉での彼女の言葉、忘れるわけがない。
さっきの言葉だって。
皆、確証もない愛というものをどうやって信じてるのかと、疑問に思っていたけど……。
よく考えてみろよ、自分。
見てくれじゃない、オレ自身を見てくれた。
命懸けで、オレを守ってくれた。
あんな醜い嫉妬に狂うオレでも、全身で受け入れようとしてくれた。
オレが辛い時、苦しんでる時、いつもすぐそばに居てくれた。
支えてくれた。
嬉しい時、一緒に笑ってくれた。
なんで、悩むことがあんだよ。
なんでここまで、遠回りしてわけわかんなくなってたんだ。
目の前の感情に振り回されて、信じていいものすら信じられなくなって。
オレを孤独にしていたのは、オレ自身だったんだ。