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【黒バス:R18】解れゆくこころ

第73章 散華



みわは、家族の記憶がない。

ショックな出来事があったからなのか、それとも、オレの時のように何かの記憶と共に偶然失ってしまったのか……。

多分、前者……だろう。

今までの記憶は、そうして封じ込めてきたに違いない。

みわの記憶を戻すためには、その辛い体験を再度しなければならないのなら……

そんな記憶、もう戻らなくていい。

みわが傷付くのは見たくない。
もう、傷付けたくない。


でももし、それでも何かのきっかけで記憶が戻ったら?

また、みわは地獄のような日々を送らなければならないんだろうか。

いや、違う。

今のみわには、オレがいる。

その時にはオレが、みわを支える。
それでいい。

そう、誓ったんだ。








細い肩を抱いている腕に、力を込める。

「みわ、これからどんな事があっても、支え合っていこう」

もしかしたらこれからも、ささいな事で揺れるかもしれない。

人間だから、それも仕方のないことだろう。

でも、その時は今日の気持ちを思い出そう。

オレには大事なひとがいるってこと。
守らなきゃならないひとがいるってこと。

「涼太……私ね、時々……怖くなるの」

「ん……何が、怖くなっちゃうんスか?」

すぅ、と息を小さく吸う気配。

「私、大事なものを忘れてしまうかもしれない、って。
涼太のこと、おばあちゃんのこと、あきのこと、海常の皆のこと……大好きなひとたちのこと、忘れてしまったら、どうしよう」

「みわ」

それは、オレには理解出来ない恐怖。

自分の大切なものが、自分の中からひとりでに消えてしまう恐怖。

もし、明日にはみわの事を忘れてしまっていたら?

想像しただけで肌が粟立つほど、恐ろしい。

その肩は、震えている。

「……私、涼太のことが好き。
涼太以外を好きになるなんて、あり得ない。涼太が好き。涼太だけ、涼太だけが大好きなの」

泣きじゃくる細い身体を、今度は優しく抱き締める。

「かみさま、お願い。私から涼太をとらないで。忘れたくない。
もう、あんな思いは、いや……」

壊してしまわないように、優しく口付けた。

それは、ほんのり苦味の残るカフェオレに混じって、甘いチョコの香り。

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