第73章 散華
「オレ……ちょっと調べたんスけど」
「ええ」
ずっと気になって、少しずつ時間を見て調べてきた事。
みわの、記憶障害の事。
「……健忘症、ってのがあるんスよね?」
更にこの健忘症の中でも、◯◯性健忘症といったように、様々な種類があるらしい。
みわのように、強い精神ショックが引き金になって記憶が抜け落ちてしまう症状もそのうちのひとつ。
突然治癒することがあり、再発は稀だという。
彼女の事情を知ってからも、違和感はあった。
あれだけ酷い目に遭ってきたみわ。
普通なら、外出するのもままならないほど、男性や人間への恐怖があるに違いない。
みわは、確かに男性恐怖症といって間違いない状態だったけど、全く外に出られない、人と関わり合いになる事が出来ないといった酷いものではなかった。
オレとこうして恋愛が出来るようになったのも、人間不信が重度ではなかったおかげだろう。
記憶がない……彼女が体験してきたうち、最も辛かった記憶をシャットアウト出来ていたのが幸いだったのか。
……アイツに犯され続けていたのですら、まだマシと思えるような事が、更に過去にあったのか……?
「その通りよ、黄瀬さん。
そしてみわはね……強い衝撃や、記憶をなくすきっかけになった時と同じ様な体験をすると記憶が戻る事が多いの」
「強い衝撃……同じ体験、っスか……」
「閉じ込めてしまった記憶たちは、同じような体験をすることがきっかけで呼び起こされてしまう可能性があるのよ……」
そうだったのか。
高1の時……傷害事件が元になって突然の記憶障害。
みわがオレの記憶を失った時、どうだったか。
あの時は、再びみわを抱いて……それがきっかけになって記憶が戻った、ということか?
……オレとのことって、みわにとってそんなに衝撃的だったんだろうか。
「医師も、みわに限っては、その可能性が高いと言っていたわ。勿論、自然に戻る事だってあるみたいだけれど」
「そっスか……」
すべて憶測でしかないのが、もどかしいな。