第73章 散華
「……実家は家族いるし、手ぇ出さないって約束してたから、帰してあげないとって、ずっとガマンしてたんスけど……」
こんな事言われて、離せるワケないじゃないっスか。
「もう帰せないよ、いい?」
みわは、返事の代わりに、オレの身体にしがみつくように、強く強く抱きついてきた。
みわの肩を抱いたまま、逸る気持ちを抑えて2階まで上がってきたが、自分の部屋のドアは少々乱暴に押し開けてしまう。
ベッドの端に座らせたみわの身体は、いつもよりも細く見えた。
その大きな瞳には、オレだけが映っている。
隣に座り、再び肩を抱くようにして引き寄せると、みわが深く息を吐く気配がする。
「みわ、まだキンチョーしてんの?」
「ううん……なんか、突然あんなこと言って、涼太困ってるかなって……」
「ん?」
「一生、とか、なんか凄い重いこと、言ったかなとか、あの」
なんだ、そんな事を悩んでるのか。
「あの、その、軽い気持ちで言ったわけじゃないの。そんな、口で言われても信用できないって思われるかもしれないんだけど」
「思わないっスよ」
大体みわの考えている事は分かる。
あの姿を見て、信用出来ないなんて言うバカがいたら、見てみたい。
「みわのあの顔見て、そんな風に思うわけないっしょ。
ごめんオレ、目が覚めたっス」
……自分のトラウマを言い訳にして、みわの気持ちを疑っていた。
サイッテー、だよな。
こんなにオレの事を想ってくれている女の事を信用出来ないで、他に何が信じられるというのだろう。
オレがずっと欲しかったもの……ひとは、こんなにすぐそばに居てくれたのに。
「みわ、ありがとう。
オレホントにバカでさ……おんなじ事ばっかり繰り返して、ごめん」
みわの肩がピクリと動く。
「これから先、多分色んな事があると思うけど……みわとなら大丈夫って、そう断言出来る」
そう、何があっても。
……言いながら、年末のみわのお祖母さんとの会話を思い出していた。