第19章 夏合宿 ー2日目ー
ごめんなさい、黄瀬くん。
どんな理由があったにしても、他の人とキスをしたという事実は最低最悪の裏切り行為だ。
知らない黄瀬くんは、変わらず優しくしてくれる。
さっきも、黄瀬くんから言ってくれたのをいいことに、甘えてしまった。
どうすればいいんだろう……
……昨日キスしてきた先輩にもテーピングが必要だったから、今朝顔を合わせたけれど、向こうは何食わぬ顔で、特に会話もしなかった。
なかったことにしてしまいたい。
余計な事を言って、黄瀬くんを傷つけたくない。
黙っておきたい。
私は黄瀬くんの噂を聞いただけでも、あんな気持ちになったんだ。
これが正しいかどうかはわからないけど。
……自分が傷つきたくないだけかな。
それにしても、今日は昨日よりさらに暑い。
体育館の入り口と窓を全開にしたが、篭った熱気はすぐには逃げない。
昨日は移動時間があったけど、今日は朝から1日練習だから、暑さで倒れる人が沢山出るかも…
氷、もっと作っておかなきゃ。
栄養補給用の差し入れを大量に作り冷蔵庫に入れ、昨晩作っておいた分をクーラーボックスから出す。
そろそろ、皆が到着する頃だ。
足音が近づいてくる。
体育館の入り口から顔を出すと、数人が目に入る。
先頭はやっぱり、笠松先輩だった。
到着した人から順に水分補給をしてから個別練習に入り、全員揃ったら全体練習が始まる。
テーブルにドリンクとレモンのはちみつ漬けを置いておくと、次から次へとあっという間になくなっていく。
空いた容器を洗ってまたドリンクを入れて、次の休憩時間までに準備しておかないと。
合宿ならではの作業だ。
普段は、皆自分で家から持ってくるから。
結局今日は、午後の1番暑い時間帯に2人が倒れ、途中離脱することになった。
幸いにも症状が軽かったため、涼しいところで水分補給と体を冷やすのを手伝えば、問題なさそう。
だからといって甘く見てはいけない。
作業の合間に、こまめに彼らのケアをするよう心掛けた。
そのせいか、夕方にはかなり疲労がたまり、自分でも足元がふらつくのが分かった。
でも、これくらい忙しい方がいい。
余計な事を何も考えなくて済むから。
でも、無理をしすぎて倒れては元も子もない。
サポート役がいなくなるのは皆にとっても迷惑がかかる……。