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【黒バス:R18】解れゆくこころ

第73章 散華


若干足早になった歩調に合わせているうちに、辿り着いたのは黄瀬家のリビングだった。

出掛ける際に切るのを忘れていたらしく、部屋の中は暖房が効いていて暖かい。

涼太は温かいカフェオレを入れてくれ、先ほどコンビニで購入したチョコレートを開けてくれた。

「オレもタケノコ派」

と言って、つまんだチョコをぱくり。

「森山センパイといっつもキノコ・タケノコ論争になるんスわ」

同じ会社から発売しているお菓子の派閥争い。

そう言えば、たまに遠征の時、電車の中でそんな話をしてたなぁ……と思わず思い出し笑いをした。

「やっと笑ってくれたっスね」

涼太は少し困ったような表情で微笑んでいる。

「なんか、悩みごとっスか? なんでも話して」

……涼太は、私の態度がおかしい事に気付いてくれていたんだろう。

でも、話したかったのは、悩みごととかそういうんじゃなくて……

ダイニングテーブルに向かい合って座っている、この改まった空気がなんとも話し辛い。

何から話せば、いいのかな……。

「あ、の……」

「うん」

「……ごめんなさい」

「ん?」

「涼太、ごめんなさい」

私は、深々と頭を下げた。
後頭部に注がれているであろう視線が、怖い。

「なんで……謝るんスか?」

優しい、涼太。
ごめんね。

「涼太は……涼太のこと、ご家族のこと、なんでも話してくれるのに……私は、自分のことも、家族のことも、殆ど覚えてない」

「みわ」

「今日ね、涼太の話を聞いていて、思ったの。私、お母さんが今どこに住んでいるのかも、何の仕事をしているのかも、お父さんとどうやって知り合ったかも、覚えてないの」

思い出そうとしても、頭に靄がかかったようになって、全く思い出せない。

お母さんとの想い出は、あの花だけ。

もう、笑顔のひとつも思い出せない……。

「それが、申し訳なくて。
涼太も、涼太のご家族の皆さんもあんなに良くしてくださるのに、私は何にも返せない」



「みわ、誰も、何かを返してもらおうとなんて思ってないっスよ」

一瞬、理解が出来なかった。



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